先日、子どもの歯の矯正の経過治療のために歯科に行ったら、これまでは3300円だった器具調整代が、4月からはなんと4400円に値上がりするという。
これもロシア・ウクライナ問題が原因のようだ。
歯科の銀歯は金、パラジウム、銀でできているのだけど、このパラジウムという金属が高騰している。
パラジウムの世界生産量の4割はなんとロシア。
供給が不安定になっている今、値段が急激に上がってしまったというわけだ。
そして矯正の器具調整代の値上げも、器具にパラジウムが使われているからシワ寄せなのだろう。
1000円値上がりしても、歯列矯正中に「受けられません」とは言えない。
まして子どもの矯正であれば「歯並びだけは治しておきたい」というのが親の気持ち。
ロシア・ウクライナ問題、早く良い形に収まってくれないものかなと思う。
でもそれは以下の文春のような事態になることを避けたいからというよりは…
今回の戦争はロシア vs ウクライナという構図をとりながら、実際は石油利権が絡んだ世界対立という見方をする方も多いから。
以下は少し前の文春オンラインから転載させていただいた。
「ロシアは紛れもなく世界一の資源大国。資源は国が管理し、外交の道具に使うべきだ」
(文春オンライン 2022/03/15)
1997年、44歳と政治家として脂の乗った、後のプーチン大統領は並々ならぬ野心を燃やしていた。サンクトペテルブルク国立鉱山大学で経済科学準博士の学位を得た際の論文には、ソ連崩壊で苦境に陥るロシア経済にどう道筋をつけるのかの戦略が綴られている。
こうしたプーチン大統領の術中に、既に我々はハマっているのかもしれない。
■我々は既にロシアに“首根っこ”を掴まれている
ウクライナ侵攻直後、ロシアに対する経済制裁を即座に発表しなかった日本政府を批判する意味で、「対岸の火事」がツイッターのトレンドワードに入った。結局は欧米各国の判断から半日遅れて経済制裁に踏み切ったが、困るのはロシアだけではない。
「我々は既にロシアに“首根っこ”を掴まれている」
そう警鐘を鳴らすのは、経済評論家の加谷珪一氏だ。
「ロシアには食とエネルギーという2つの最強カードがある。半年経てば、ウクライナ侵攻は、我々の家計に確実に影響を及ぼします。
わかりやすく食品からいきましょう。今回のウクライナ侵攻の影響を受け、シカゴ商品取引所では4日、小麦の先物価格が14年ぶりの高値を記録しています。こうした小麦価格の上昇で、最初に値上げするのはパンです。
国際価格の上昇が、日本に波及するまでにはタイムラグがあるので、値上げが始まるのはおおよそ半年後。簡略的なイメージとしては、それから2カ月毎に、お菓子→カップ麺→レストランと値上げが進み、1年後にはほぼ全ての食が値上がりするでしょう。小麦が製品に占める割合が大きいモノほど、早く影響を受けます」
そもそも小麦は、2021年に既に1.5倍程度に上昇し、パンは10~15%値上げしているという。要因は新型コロナからの景気回復期待や、新興国の成長などだ。
■“世界小麦争奪戦”でパンはいくらになる?
「そこにウクライナ侵攻が加わり同じレベルで小麦価格が上昇すれば、また10%ほど値上がる可能性があります。
ロシアの小麦生産量は世界4位。ウクライナは7位です。実は、穀物の大量生産に適した場所は地球上にほとんどありません。アメリカ中西部やアルゼンチンなど南米の一部地域、そしてロシアとウクライナぐらいです。供給を増やすには、灌漑して耕作地を増やすぐらいしか方策がなく、それには莫大な金と時間がかかります。つまり、急に増やすのは無理なのです。
ちなみに小麦は乾燥した冷涼な地域で栽培されるので、温暖化が進むとドンドン栽培面積が減っていくという恐ろしい予測もあります。今後、世界的な“争奪戦”が起こるのは必至でしょう」
「それならパンを買わなければいい」と思う人もいるかもしれないが、ことはそう単純ではない。価格上昇の波はあらゆる食品に及び、「値上げしないモノを探す方が難しい」状況に陥る可能性があるという。
■小麦の次はトウモロコシも大豆の価格も上昇
「小麦の価格があがれば、その代替物となるのがトウモロコシと大豆。例えば、小麦を使っていたお菓子が値上がれば、『じゃあ小麦はやめてトウモロコシを使おう』となるのは自然ですよね。だから小麦が高くなれば、トウモロコシも大豆も高くなっていくのが常なのです。
トウモロコシを食べるのは人間だけではありません。牛や鶏などの家畜も『飼料』として食べる。そうなれば肉も卵も値上がりし、牛丼屋の生卵セットも500円では食べられなくなるかもしれません。コンビニのお弁当は小麦も肉も全てを含んでいるので、確実に値上がりします。サンドイッチも同様で、すでに8日にはローソンが『たまごサンド』を228円から246円に値上げすると発表しています」
■日本の伝統食にも危機が迫っている
「ロシアへの経済制裁への対抗策で一部原料の禁輸の検討をしているいま、最も打撃が大きそうなのが蕎麦なんです。実はロシアは世界有数の蕎麦大国で、世界の蕎麦の3割以上を生産している。日本のそば粉も原料の多くをロシア産に頼っており、それがなくなると一気に消費に追いつかなくなる可能性があります」(対露貿易商社関係者)
■値上げは家電、車、マンションにも及ぶ
こうした値上げラッシュに火をつけるのが、もう1つのロシアの武器「エネルギー」だ。エネルギー価格の上昇で、ビニルハウスで栽培するレタスやトマト、いちごなどへの影響は計り知れない。最終的には家電や車、果てはマンションにまで及ぶと指摘する。
「原油が高騰するペースや為替相場を見れば、半年後にガソリンが現在の1リットル170円前後から200~220円になるのは、決して大げさな予測ではありません。現在政府が議論する、ガソリン税を軽減する『トリガー条項』を発動しても下がるのは25円。輸入品を日本に運ぶには燃料代がかかり、原油高は食品の値上げにも直結します。
またロシアは世界屈指の『ガス大国』で、日本の発電の4割は液化天然ガス(LNG)です。LNGの供給が滞れば、電気代やガス代が上昇しますが、それだけではありません。例えば鉄を作るのにも、莫大なエネルギーがかかるのです」
鉄を含むものは家庭のなかに数限りなくある。冷蔵庫などの白物家電から、車、そしてマンションなどの住宅まで、鉄がなければ形になりえないものばかりだ。
「例えば昨年には原材料費や物流コストの上昇で、住宅設備大手のLIXILがトイレや浴室、システムキッチンなどの価格を最大4割値上げしました。ウクライナ侵攻で鉄が高騰すれば、こうした値上げラッシュに拍車がかかる恐れがあります。通常、こうした大型商品まで値上げが波及するには1年ぐらいかかりますが、今は『ウクライナ侵攻で原材料が値上げしている』と企業側も説明しやすく、もう少し早く波が到達するかもしれません。
こうしたインフレ直撃から家計を守る最善策として、車やマンションなど大金が要るモノは早く買った方がいい。食品が値上がるからといって、カップ麺1年分を買い溜めるのは大変ですし、大した節約にもならないと思います」
こうしたインフレはウクライナ侵攻が終息したとしても、新興国の成長といった「構造的な需要過多」がある限り、長期的には続くと加谷氏は指摘する。
日本が「資源大国ロシア」を後押ししてきた
“対岸の火事”どころではないエネルギー問題だが、そもそもロシアが資源大国にのし上がった背景はどうだったのだろうか。そこには日本が深くかかわっているという。
大手経済誌記者が解説する。
「『資源大国ロシア』は、日本が少なからず後押ししてきた側面があります。ロシアは資源の輸出に頼って成長を続けてきましたが、そもそも日本がLNG(液化天然ガス)の輸入をはじめて約50年間、需要量は日本がほぼずっと世界で断トツの1位、韓国が2位でした。ヨーロッパや中国など地続きの国のようにパイプラインで天然ガスを得られない日本や、北朝鮮が間にある韓国にとって、天然ガスは液化して海を通し輸入するほかなかった。そのため、ロシアのLNG開発への投資は惜しまずやってきたわけです。
特にこの10年は、北極圏の膨大なガス田を開拓する、『北極バブル』。それを可能にしたのは日本です。例えば北極圏を航行できる『砕氷船』の開発や、LNGプラントの建設などは日本の技術に負うところが大きく、民間と政府が一緒になって推し進めてきました」
■ロシアからのLNG輸入量は全体の約8%
ちなみに、2021年の日本のロシアからのLNG輸入量は657万トンと全体の約8%だ。
「こう聞くと、たいしたことがないと思われるかもしれませんが、657万トンの穴を埋めるのはめちゃくちゃ大変です。普通、LNGの契約は1つのプラントで数十万トンぐらい。100万トンを超せば、かなりの大型契約です。プラント建設には1兆円規模の予算が必要ですし場所も限られ、建設時点で既に売り先が決定しています。LNGプラントの建設から、実際に手元に届くようになるまで5年はかかるでしょう」
13日、岸田首相が原油価格の高騰について、国内のガソリン価格を維持すると宣言。「私自身、資源外交を積極的に展開し、歴史的関係を築いてきた中東産油国への働きかけを行う」としたが、話はそう簡単ではないようだ。
「最近、グローバルエネルギー企業『シェル』がサハリンから撤退しましたが、それは資本が大きく、アフリカなど他地域にも根を張り、特別ロシアにこだわる必要がないから。政府関係者は『あらかじめ“ロシアリスク”を勘案し、手を引きやすいように契約を結んでいたのだろう』と話していました。いずれにせよ、日本企業の“即時撤退”は難しいようです」(同前)
昨今、CO2の排出を制限する「カーボンニュートラル」という言葉が聞かれるようになったが、「これで短期的には目標は棚上げだろう」と経済誌記者は話す。
■ロシアLNGが調達できなくなったら日本は…?
「天然ガスは“ブリッジエネルギー”と呼ばれ、CO2の排出量が石炭に比べ少ない。CO2排出量が高い石炭と、まだまだ発電量が少ない再生可能エネルギーの“橋渡し”と捉えられていたのです。日本では2011年に東日本大震災が起こり、発電量の2割を占めていた原発が使えなくなりました。
その代替として期待が高まったのが、天然ガスでした。再エネとの相性もバッチリで、例えば太陽光発電なら、お天気次第で供給に波がありますが、石炭は稼働に3日ぐらいかかるのに対し、天然ガスは数時間で動かせる。供給量が調整しやすかったのです。
EUはロシアと地続きだったためパイプラインの天然ガスを使ってきましたが、これからはアメリカやオーストラリアなどからLNGで運ばざるを得ない。LNGの調達価格は上がりますし、そうなれば確実に日本の生活にも跳ね返ってくるのです」
有名企業が“抗議の撤退”を進めるなか、各国政府の“制裁”は今ひとつ及び腰といわれる。今後はロシアの2つの武器の攻略を見極める手腕が問われそうだ。
(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))